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2006.11.12

「嫌われ松子の一生」山田宗樹

心にまたひとつ、小さなひだができて、悲しみの中にも温かい血液が流れ込むような、心に刻まれる本だった。


映画にもドラマにもなっているので(私はみていないけど)ご存知の方も多かろう。
松子という一人の女性の悲しい人生を書いた本だ。

風に揺れてる朽ちかけた伝言板                 裏切られるよりさまようほうがいい

福岡で生まれた松子だが、いくつかの事件がおこり、教職を追われ、そのまま失踪。
その後は恋人に尽くした挙句に自殺されたり、遊ばれたり、利用されたり、むくわれない。
仕事も転々とし、トルコ嬢にもなる。
覚せい剤にも手をだす。
同棲していた男を殺して服役する。
そして最期、何者かに殺されて、東京のぼろアパートで死体となって見つかるのだ。


便りがない日々に淋しさだけつのってゆく
影を引きずるぐらいなら名もない鳥でいい

最初は、ああああ~~究極のだめんず・うぉーか~ね・・・。と
かなりシラけた気持ちで読んでいた。
教職時代の事件ひとつとっても、世間知らずで判断能力に乏しく、プライドだけ高くて、場当たり的で、人の気持ちを考えなければ、自分の後先も考えない。
バカ女なのだ。

陽炎の様にゆらいでる約束の場所  はるか遠くの街


けれど、この本のうまいところは、
松子の死をきっかけに初めて松子伯母の存在を知った甥っ子の目をとおして松子の人生をなぞることで、ぐっと松子へ感情移入しやすくなる点だ。


誰かが全部幻だと教えてくれたら僕は
何処へ行くだろう


たしかに松子は、バカだ。
愛されたいと思うだけの何も考えてない大ばか者だ。

なまじ美人でスタイルがよいから、いろんな男が口説いてくる。
「愛している。ずっと一緒にいる」
そう言われればすぐに信じてしまう。


主を探している はぐれた雲に話しかける
何にすがった時に一つの旅は終わるんだろう


自分を愛してくれる男、自分のそばにいてくれる男。
熱っぽく口説かれれば、すぐにその気になる。


月は今日の夜もしんしんと照らしている
想うのはただ愛しい人の胸で眠りたい

松子は頭が良くて、器用で、一生懸命に仕事をし、
男に尽くす、男を信用する、そして裏切られる。


たとえ幻であってもせめて一夜の
ぬくもりに酔いしれたい

彼女の人生最後の10年は、またしても恋人に裏切られ、もう結婚も子供も自分には無理だろうという絶望の中、失意の日々だった。


裁判所の判決文にあるように、世間の常識は彼女を、
いくら幼少期に父親の愛が得られず、屈折した心を持っていたとしても、あまりに行動が場当たり的で、唐突で、うまく対人関係が築けない人間と言わざるを得ない。

けれども、おそらく誰の心にも愛を乞う本能があり、
誰かに愛されようと、そして自分もどんなことをしてでもその人を愛そうと望んで、そのために頑張って、いったい何が悪いのか。
私は松子ににらまれた気がした。


心の奥で消えかけたわずかな明かりを
もう一度両手につつんで

結局、松子は世間の悪意をすべて背負い込んで、死んでしまった。

陽炎の様にゆらいでる約束の場所  はるか遠くの街

映画はミュージカル仕立て、ドラマもそれなりに明るく作っているらしい。
理由はあまりにも暗い話だから、あえて楽しくしたとも聞くし、
松子の淋しい一生の中にも、恋人と暮らして楽しかった時間もあるはずだから、そこを強調したかった、という話も聞く。


でもやっぱり松子はずっと淋しかったんだと思う。


父親に褒められ、みんなに賞賛されるような人生を捨ててしまった日から、ずっと彼女は淋しかったはずだ。


本を読み終えるころ、私は松子をけなすことなく、ただ彼女の悲しみに、打ちひしがれた。


誰かが全部幻だと教えてくれたら僕は
何処へ行くだろう

「嫌われ松子の一生」を読んで、すぐに聴いた曲は、
山崎まさよしの「名前のない鳥」
寂寥感いっぱいのせつない曲だ。
(本文のところどころに引用したのはこの曲です)

私は松子が、故郷の九州や約束されていたはずの幸せな未来を想って、流しただろう涙を想った。
愛する人の胸に抱かれることだけが頼りであった松子の心を想った。
松子の心の中でもう一度灯りかけた明かりを、消させたくなかった。

とてもとても切なかった。


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「嫌われ松子の一生」 山田宗樹


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山崎まさよし「HOME」

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Comments

映画化されて、テレビでもやるなんて、
いったいどんな話なんだろうって思っていました。
そう思って、テレビ版をチラっと見ました。
うん、なんてバカな女なんだろう。
そう思ったけど、見届けたいと思いました。
たぶん、本の方が伝わるとは思うけど。
確かに・・・、切なくなるね。

Posted by: るん♪ | 2006.11.18 at 02:05 PM

るん♪さん、こんにちは。

松子はまさしくバカ女の横綱。TVドラマでは松子の前に朝日系で「だめんず・うぉ~か~」やってるけど、松子とはバカさ加減も、転落度も違いすぎます。

でも、本読んで切なくなった。
本を読むって、自分の知らない人生を知ることなのよね~~。

Posted by: Nolly Chang | 2006.11.18 at 04:28 PM

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Tracked on 2006.12.09 at 10:21 AM

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